コラム「障がい」と「仕事」
【当事者の視点で支援を考える】
第4章 自閉当事者の思いに迫る逆SSTへの挑戦
2024.02.12
森本さんはどうして「うれしい!!」「楽しい!!」「大好き!!」といった感情をよく伝えるのでしょう?
前回に引き続き自閉当事者の思いに迫る※逆SSTへの挑戦です。
今回の出題者は立命館大学の森本陽加里さんで、ご自身が発達障がい者として苦労され、その苦労がうまく周囲に理解されずに自分の困りごとにあった支援が受けられないという経験を積み重ねられました。
そしてその状況を何とか改善していきたいと、すでに高校時代から当事者としての困り感や状態を学校の先生や周囲の人にうまく伝えたり、自分自身が自分の状態に気づいて調整しやすくするためのアプリの開発を始められました。
その大活躍の様子は立命館大学のサイトで以下でもご覧になれます。
「発達障害の子どもたちが、笑顔で学校に通い続けられるように」 発達障害児者支援アプリ『Focus on』を開発
※逆SSTとは
自閉症者が定型発達者を理解しなければならないように、実は定型発達者も自閉症者をもっと理解する必要がある、という発想で行われるのがSSTの逆方向、つまり逆SST(Social Skills Training- reversed)という発想の事。
自閉当事者 森本さんからの逆SST問題に挑戦しよう
森本さんの出題についても、やっぱり私は「正解」の半分くらいまでたどり着くのがやっとで、何度か「大事なのはその先なんです」と言われたりしています。
みなさんもどうぞ挑戦してみてください。
さてどうでしょう?
森本さんが子どものころにほしいおもちゃをじっ…と見ていたら、その表情が誤解されて取り上げられたり、そんな経験が積み重なっていたことを説明してくださっています。
この「感情」と「表現」の間の関係が、定型が自然と感じるつながり方とかなり違っていることがある、というのは、この例に限らず、私は自閉の方と付き合っていてしばしば出会って困惑するところです。
そんなふうに自分にとっては自然なふるまいを常に誤解されたり、あるいは「不適切なもの」として否定されたりする経験を積み重ねていくのが自閉的な方のひとつの典型的なパターンのようです。
誤解されないように自分をコントロールする
このように自閉系の方はだんだん大きくなるにしたがって「誤解されないように意識的に自分をコントロールする」ということを身に着けていかれます。
ところがそのコントロールの仕方が森本さんのこの例のようにうまくはまればいいのですが、必ずしも定型発達者には理解しにくくて、また誤解されたりもするのです。
そうやって常に「どう表現したらいいのかわからない」状態に置かれ、コミュニケーションの中で緊張し続け、疲れ果ててふらふらになってしまう方もあります。
この「感情」と「表現」のズレがどうして生まれるのか、どうやったらそのズレを理解しながら調整できるのか、ということが私にとっては大変に大きな研究上の課題の一つになっていて、そこがある程度見えてくれば、コミュニケーションの葛藤がある程度軽減するところもあるだろうと考えています。
そんな努力はこれから続けていきたいと思っていますし、そういう方向に共感してくださる研究者や支援者も少しずつ増えてきているように感じているのですが、いずれにせよ簡単にわかるものではないですし、また完全にわかるものでもありません。常にズレは残り続けます。
そういう状況の中で「わからないながらも支援する」のはどうしたらいいのか。
実は逆SSTのポイントは「わかりきることは無理」ということを大前提に考えられているのですが、次回はそのことについて少しずつ考えてみたいと思います。
筆者プロフィール
発達支援研究所所長 山本 登志哉
障がい者は「不完全な人」ではなく「少数派の特性を持つ人」。
共生は多数派に合わせることではなく、特性を活かして一緒に生きること。
そこに生まれる困難を調整するのが支援。
当事者と共にそんな模索を続けます。
📢次回は2/19(月)【当事者の視点で支援を考える】第5章「わかる」と「わからない」の微妙な関係の中で支援すること について掲載予定です
毎週、お会いできることを楽しみにしています。
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